右腕の力みを手放した日~ヴィヴィアン初レッスン(2)
(前回のつづき)
ヴィヴィアンが、「ボーイングは良くなったわよ」と言いました。
私が、「弾き方も音も良くなったような気もしますが、自分が何をしていたのか、わかりません。」というと、
ヴィヴィアンは、「(それまでやっていた余分なことを) やらなかっただけよ」と言い、何が変わったのかは教えてもらえませんでした。
その後、「もう一度初めから弾いてみて」と言われて、プレリュードを弾き始めました。ずっと休符なく弾き続ける曲です。
最初の数段は、先程レッスンしたばかりなので、新しい自分のコーディネーションを自分にお願いしながら弾き続けることができました。
その後、移弦の複雑な部分に突入しました。レッスンの初めに弾いたときにはうまく弾けなかった箇所ですが、腕が勝手に上下して弾きたい弦をならしてくれる感覚で、今までより移弦がスムーズにできました。
1ページが経過し、まだ自分のコーディネーションへのお願いを継続しているつもりでしたが、楽譜の方に気をとられて軸への思いが少し弱くなっていたかもしれません。
そのとき、おもしろいことが起こりました。
ある小節でスラーがかかった音形が現われ、そこに「弓多めに」という楽譜の書きこみが見えました。そこは弓を多めに使ってしっかり弾くようにと、ヴァイオリンの先生に習った箇所です。
これを見た瞬間、ヴァイオリンの先生の顔がよぎり、いつもの弾き方に戻って、腕で圧力をかけてしっかり弾こうとしました。
そのとき、右腕の上腕をギュッと握られるような筋肉の反応を感じたのです。
いつもの習慣に戻った瞬間でした。
今までに感じたことのない筋肉の反応でしたが、「これが今までの私の弾き方だったのか!」と思いました。
次の瞬間、頭が脊椎の上にあることを思い、新しい弾き方に戻ってみると、同じ音形の次の小節では、前の小節とは質の異なる音が出ました。
スラーの部分で腕を押しこんで弾こうとする衝動を抑えて、頭が上方向に行くことだけを考えたら、力を使わず弓を必要なだけ動かすことができたのです。
その瞬間にヴィヴィアンが
” Yes, yes ! ”
といいました。
このとき、今まで自分がヴァイオリンの弓のストローク毎に、どんなに無駄な負荷を上腕にかけていたかを知りました。
そして、頭と脊椎の関係をお願いして全身の使い方を変えることで、瞬間的に音が変わることを学びました。
忘れることのできない、わずか5秒間の出来事です。
その弾き方をさらに続け、G線の低い音に移った時、力を使っていないのに「ゴーン~」と深みのある音が鳴りました。自分でもびっくりする音の連続にドキドキし、もう十分と思ったとき、ヴィヴィアンが、
“ Very good ! “
と言い、そこで演奏は終了しました。
「そうか、これで良いのか!」と思いました。
「あなたは今まで、カラダを固めて弾こうとしてきた期間が長かったかもしれないけど、今からでも変われる可能性はある。」とヴィヴィアンは言いました。
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その日以降、この弾き方を継続することが、アレクサンダー・テクニークの自分のコーディネーションを「お願い」する練習に、とても役立ちました。
音は良いフィードバックを与えてくれます。
頭と脊椎の関係をお願いすることで、余計な筋肉の緊張がなくなり、腕は勝手に動いてくれていい音が出ることを、確信できた体験です。
(写真は2015年アイルランドにて)